三為契約とは?売買価格1万円の買付申込に潜む最大の弊害と、地方不動産売却の注意点
1. 三為契約(第三者のためにする契約)の基本的な仕組み
通常の不動産取引との違い
不動産を売買するとき、通常は次のような流れになります。
1. 売主(Aさん)が不動産会社(B社)に売却する
2. B社が自分のお金で代金を支払い、不動産の名義を「AさんからB社へ」変更する(所有権移転登記)
3. B社がリフォームなどを行い、別の買主(Cさん)に売却する
4. 不動産の名義を「B社からCさんへ」変更する
この通常の流れでは、B社は物件を一度自分のものにするため、「登記費用(登録免許税や司法書士報酬)」や「不動産取得税」を支払う必要があります。また、購入代金を自社で用意しなければなりません。
三為契約では何が起きるのか?
一方、「三為契約(第三者のためにする契約)」では、民法第537条に規定されている制度を利用し、
以下のような特殊な流れをとります。
このように、B社は名義変更の登記を挟まずに、AさんからCさんへ権利をパスします。
昔行われていた「中間省略登記」が法改正で厳格化された後、それに代わる正規の代替手法として認められた取引形態です。
2. 三為契約の「最大の弊害」とは?
三為契約そのものは正規の契約形態ですが、なぜこれほどまでに問題視されるのでしょうか。
その最大の弊害は、「売主が相場より安く売却させられ、買主が相場より高く購入させられることで、
間に挟まった不動産会社が不当に巨額の差益を得る構造になりやすい」という点にあります。
具体的に、以下の4つの大きなデメリット・弊害が存在します。
① 取引価格の不透明さ(見えない抜き値)
三為契約では、最初の売主様と、最終的な買主様が直接顔を合わせることはありません。
お互いが「いくらで売ったのか」「いくらで買ったのか」を知らないまま取引が進みます。
そのため、間に挟まる不動産会社が不当に高額な利益(いわゆる「抜き値」)を隠しやすい構造になっています。通常の仲介であれば手数料の上限が決まっていますが、三為契約は「売買」の形をとるため、利益の上限がありません。
② 売主の安値買い叩き
「早く手放したい」「草刈りが大変だ」と売却を急いでいる売主様の心理につけ込み、
不動産会社が相場よりはるかに低い価格(1万円など)で買い取る契約を結びます。
売主様は「売れないよりはマシ」と納得させられますが、その裏ではるかに高い値段で別の買主に転売されているのです。
③ 買主の高値購入(高値づかみ)
最終的な買主様は、地域の相場に詳しくないことが多く、不動産会社からの「この物件はすぐに売れてしまいますよ」といった焦らせる営業トークに乗せられがちです。
不動産会社の過剰な転売利益が上乗せされた、本来の価値よりも明らかに割高な価格で物件を買わされてしまいます。
④ 契約・法的リスク(融資が下りないトラブル)
これが非常に厄介な点ですが、次の買主が見つからないと、
間に入った業者が「特約」を理由に契約を一方的に白紙解除して逃げてしまうリスクがあります。
間に入った業者が「特約」を理由に契約を一方的に白紙解除して逃げてしまうリスクがあります。
さらに、困るのが、運よく買い手が見つかったとしても安心できないということです。
銀行などの金融機関は、間に業者が入って不自然に価格が上がっていたり、権利関係が複雑になったりするのをとても嫌がります。そのため、こういった契約(三為契約)というだけで、住宅ローンの審査が通らないことがあるのです。
結果として、買主様がローンを組めず、取引自体が流れてしまうトラブル後を絶ちません。
3. 実例公開:実際に届いた「売買価格1万円」買付申込書の条件
では、実際に送られてきた買付申込書には、どのような条件が書かれているのでしょうか。
今回届いた実例の項目を整理してみます。
★販売価格150万円の中古住宅に対して
- ・購入希望価格:金10,000円(手付金0円・残金10,000円)
・融資利用:無(自己資金0円) ・重要事項説明書を確認後の契約 ・第三者の為の特約を記載(三為契約の指定) ・公簿売買 ・現況有姿 ・契約不適合免責 ・測量無し ・残置物の撤去のみお願いします(売主様負担) ・契約後(決済前)の販売活動の承諾 -
この条件にどのような罠が潜んでいるのか、一つずつ紐解いていきます。
4. 「1万円買付+三為契約」に潜む5つの大きな罠
罠①:売買価格1万円なのに、残置物撤去で数十万円の「大赤字」
この手の申込書には、ほぼ確実に「残置物の撤去のみお願いします」といった文言が入って
います。
家の中にある古い家具、家電、生活用品などの処分をすべて売主様に押し付ける条件です。
一般的な一軒家の残置物を専門業者に頼んで片付けると、平気で30万円〜100万円前後の費用が
かかります。
売主様は「1万円で売れた」と思っても、片付け代で数十万円を自腹で支払わなければならないため、
結果として大赤字になります。 買主業者は1万円しか出さないのに、売主様のお金で家の中を
すっきりと綺麗にさせ、 自分たちは何一つ片付けの負担を負いません。
罠②:「契約後の販売活動承諾」で物件をタダでキープされる
「契約後(決済前)の販売活動の承諾」という項目は、非常に身勝手な条件です 。
これは、「売主様と契約を結んで物件を押さえた後、自分のお金を1円も支払わないまま、
ネットやチラシで次の買主(Cさん)をゆっくり探します」という宣言です 。
もし買い手が見つからなければ、痛手ゼロで契約を解除して逃げます。
売主様は「売却が決まった」と信じて待っていた貴重な数ヶ月間を無駄に奪われ、
本来なら普通に売れていたかもしれないチャンスを大きく逃すことになります。
罠③:売却後の責任(契約不適合責任)の押し付け合い
通常、不動産会社が自ら買い取り、再販する場合、
法律により
「契約不適合責任(雨漏りやシロアリなどの欠陥に対する責任)」を完全に免責にすることはできません。
しかし、三為契約で最終買主が一般個人(Cさん)になった場合、契約書の作り方によっては、
後から建物に重大な欠陥が見つかった際、最初の売主様が責任を追及されるようなトラブルに
発展するケースがあります。自社で責任を取る気のない業者が間に入ることで、
権利関係が極めて不透明になります。
罠④:売り出したばかりの物件を「1万円」で奪う不当性
地方の不動産において、長年買い手がつかない過疎地の山林や、倒壊寸前の廃屋であれば、
1万円や無償譲渡、あるいは処分費用を支払って引き取ってもらう取引も現実には存在します。
しかし、売り出しを始めたばかりで、適正な販売活動を行えば一般の買主様が見つかる可能性が
十分に高い物件に対しても、こうした業者は現地の状況も見ずに機械的にFAXやメールで「1万円」と
買い叩きに来ます。
右から左へ転売して暴利を貪ろうとするやり方は、誠実な取引とは到底呼べません。
罠⑤:実績に乏しい転売ブローカーの乱立
近年、SNSや転売セミナーなどで「自己資金ゼロでできる不動産転売ノウハウ」といった手法を学んだ
新規参入業者が急増しています。
都道府県から交付される宅地建物取引業者免許の番号を見ると、「(1)」のようにカッコ内の数字が
「1(開業5年未満)」になっている会社が多く見られます。
もちろん誠実に地域密着で頑張っている新しい会社もたくさんあります。
しかし、レインズやポータルサイトに載っている物件を手当たり次第にリストアップし、
「1万円・三為・残置物売主負担」の買付を一斉送信しているような業者が混ざっているのも紛れもない
事実です。
5. 地方の不動産(負動産)の現実:すべてが「タダ」ではない
誤解のないようにお伝えしなければならないのは、「地方の不動産の中には、本当にお金を払ってでも
引き取ってもらわなければならない物件がある」という厳しい現実です。
実際に地方の現場では、以下のような物件が数多く存在します。
・接道条件を満たしておらず、建て替えが法的に不可能な土地
・傾斜地や崖崩れの危険があり、擁壁の工事に数百万円以上かかる場所
・築年数が極めて古く、雨漏りや床の抜け落ちが激しく解体するしかない建物
・私道負担や境界をめぐって近隣と深刻なトラブルを抱えている土地
こうした物件の場合、固定資産税や管理責任から逃れるために、売主様が数十万円〜数百万円の引き取り費用(処分料)を支払って専門業者に引き取ってもらうケースは現実にあり、そうした選択が売主様の肩の荷を下ろす最善の救済策になることもあります。
しかし、すべての地方不動産が価値ゼロの「負動産」ではありません。
築年数が経過していても、少し手入れをすれば住める家や、日当たりがよく家庭菜園が楽しめる土地、
静かな環境で暮らしたい移住者にとって魅力的な古民家はたくさんあります。
そうした「まだ十分に価値があり、求めている人がいる物件」まで、一緒くたにして「地方だから価値はありません。1万円で引き取ります」と言葉巧みに誘導し、裏で何百万円もの転売益を抜く行為こそが、
今問題視されるべきなのです。
6. 怪しい買付・不誠実な業者を見抜くためのチェックリスト
大切な不動産を守るために、購入希望や買取の打診があった際は、必ず以下の項目をチェックしてください。
・売買価格が「1万円」「数万円」など極端に安すぎないか
・ 契約条件に「第三者のためにする契約(三為特約)」が入っていないか
・ 「残置物の撤去」「土地の測量」「建物の解体」がすべて売主負担になっていないか
・ 手付金の額が「0円」または「1万円」など極端に低く設定されていないか
・ 「決済前(契約後)の販売活動を承諾すること」という条件が入っていないか
・ 「転売先が見つからない場合は無条件で解除」という特約が入っていないか
・ 相手の会社が一度も現地を見に来ていないのに、FAXやメールだけで一斉に書類を
送りつけてきていないか
これらの項目のうち、2つ以上当てはまる場合は、一度立ち止まって冷静に契約内容を見直す
必要があります。
7. トラブルに巻き込まれないための自衛策
① 1社だけの意見で即決しない
不動産の査定や売却相談は、必ず地元の事情に詳しい複数の会社に相談してください。
「他社では値段がつかないと言われた」という場合でも、別の会社なら地域の需要を把握していて
適正な価格で買い手を見つけられることがあります。
② 「総額でいくら手元に残るか(出ていくか)」を計算する
提示された売買価格だけでなく、残置物の撤去費用、測量費用、登記費用、手数料など、
取引全体でかかるすべての費用を合算してシミュレーションしてください。
「1万円で売れる」と言われても、片付けに50万円かかれば49万円の赤字です。
条件の全体像を冷静に見極めることが重要です。
③ 契約内容を一つひとつ納得いくまで確認する
不動産の契約書には、難しい言葉がたくさん並んでいます。
分からない言葉や特約条項があれば、「これはどういう意味ですか?」「売主にどんな不利益があります
か?」と遠慮せずに担当者に質問してください。
納得のいく説明が返ってこない業者とは、絶対に契約を結んではいけません。





