山口県下松市への移住はなぜ人気?「空き家バンクがない」理由と、知っておきたい暮らしの実情
山口県内にある13市6町の移住への取り組みや、それぞれの街が持つ独自の魅力を一つずつ紐解いていく連載企画。
今回は、東洋経済新報社が毎年発表している「住みよさランキング2026」において、なんと全国5位(山口県内では21年連続1位!)という快挙を成し遂げた下松市(くだまつし)を取り上げます。
最近は働き方の変化もあり、「地方移住」を考える方が増えています。しかし、皆さんが本当に求めているのは、山奥での完全な自給自足やスローライフだけではありません。各種のアンケート調査でも、移住先を選ぶ条件のトップは「日常の買い物が不便でないこと」、次いで「病院や学校が整っていること」が挙げられています。
つまり、移住を考える方が一番に求めているのは、「都会の便利な生活インフラ」と「豊かな自然環境」が両立する、良いとこ取りの環境なのです。そして、その切実な理想を高い次元で叶えてくれるのが、今回ご紹介する下松市です。
なぜこれほどまでに全国から高く評価され、自然と人が集まるのか。その住みやすさの背景から、独特の歴史、そして気になる住宅事情まで、たっぷりとご紹介します。
1. 全国5位の実力!すべてが揃う「コンパクトシティ」
下松市の街づくりにおける最大の特徴は、市役所や病院、そして大型の商業施設が、平野部の比較的狭い範囲にギュッと集まった「コンパクトシティ」であることです。
とくにJR下松駅の周辺には、「ゆめタウン下松」や「星プラザ」といった大型ショッピングモールが集結しています。毎日の食料品や日用品の買い出しはもちろん、映画館での娯楽までが、車や自転車で移動できるごく狭い範囲で完結します。移住において一番心配な「買い物の不便さ」を感じさせないこの環境は、大きな安心材料と言えます。
驚くほど安い「水道料金」の秘密
移住後の生活を考える上で、毎月必ずかかる固定費は見落とせません。実は下松市、全国でもトップクラスに「水道料金が安い」街なのです。
全国の平均的な水道料金が月額およそ3,241円なのに対し、下松市はなんと約1,505円。全国平均の半分以下に抑えられています。これは、市内に二つのダムという豊かな水源があることに加え、大企業の工場群が工場用水を大量に使う事で、水道事業全体のコスト効率が劇的に良くなっているからです。毎月の生活費を自然と抑えられるのは、日々の暮らしに大きなゆとりをもたらしてくれます。
新幹線へのアクセスも良好
普段の生活は車での移動が中心になりますが、遠方へのお出かけや出張も便利です。市内に新幹線の駅はありませんが、お隣の周南市にある「徳山駅」までは、JR山陽本線でたったの約8分(2駅)。徳山駅からは新幹線(のぞみも停車します)に乗れるため、東京や関西、九州方面へのアクセスも非常にスムーズです。月に何度か都市部へ出社するようなテレワーク中心の方にも、ぴったりの環境です。
2. 街を支える「ものづくり」と豊かな財政
下松市がこれほどまでに便利な街へと発展した背景には、古くから重化学工業や製造業で栄えてきた強固な経済基盤があります。人口約5.5万人の街でありながら、製造品の出荷額等は毎年3,500億円を超えるという、非常に高い生産性を誇っています。
世界を走る新幹線が生まれる街
この「ものづくりのまち」のシンボルとも言えるのが、株式会社日立製作所の笠戸事業所です。ここは、日本の新幹線をはじめ、海外向けの高速鉄道車両も製造している世界的な鉄道拠点です。近年では台湾の新幹線(総額約1,240億円規模)の車両製造も手掛けており、街に大きな雇用と活気をもたらしています。
この鉄道産業は、単なる経済の柱というだけでなく、市民の大きな誇りにもなっています。完成した巨大な新幹線車両を、工場から港まで真昼の公道を使って専用のトレーラーで運ぶ「陸送(りくそう)」は一大イベントです。2024年4月に開催されたイベントでは過去最高の約5万人もの見物客が集まりました。
こうした世界とつながる安定した産業があるからこそ、下松市は地方自治体の中でもトップクラスの豊かな財政を維持でき、それが市民の暮らしやすさへとダイレクトに還元されているのです。
3. 子育て世代に嬉しい、手厚い医療費助成と補助金
豊かな財政は、市民へのサービスとしてしっかり形になっています。なかでも、これから移住して子育てをしたいというファミリー層にとって、下松市の支援策は非常に魅力的です。
18歳まで医療費が完全無料
下松市では2024年(令和6年)8月に制度が大幅に拡充され、現在は18歳(高校生年代の年度末)までのお子さんの医療費が、通院・入院ともに全額助成(健康保険適用の自己負担なし)されています。しかも、親の所得制限はありません。子どもが小さいうちは急な発熱やケガがつきものですが、この手厚い制度のおかげで、お金の心配をせずに安心して病院にかかることができます。
また、広い敷地でのびのびと遊べる保育施設や、買い物のついでに無料で遊べる子育て支援センターなども充実しています。人気の街であるがゆえに子育て世代の転入が多く、保育園の空き状況は少し余裕がない時期もあるため、移住を考える際は希望する時期に合わせて早めに保育園の状況を確認しておくのが安心です。
最大300万円!強力な移住支援金
下松市では、条件を満たした移住者に対して大きな経済的サポートを用意しています。たとえば、東京23区に通勤していたご夫婦がお子さん2人を連れて移住し、今の仕事をテレワークで続けるような場合、最大で300万円(基本100万円+子ども加算100万円×2人)もの移住支援金が受け取れる可能性があります。大阪や愛知などの地域からの移住でも、数十万円の支援金が用意されています。
さらに、若い世代が住宅ローンを組んで家を買うときの利息の一部を補助してくれる山口県の制度や、古い空き家の解体・リフォーム補助(最大約110万円)なども充実しています。移住にかかる初期費用を大きく減らせる仕組みが整っているのです。
4. 「星降るさと」のロマンチックな歴史と地域のお祭り
都市の便利さだけでなく、地域に根付く歴史や文化の深さも、その土地に愛着を持つための大切な要素です。下松市は、その名前の由来自体がとても神秘的で、「星降るさと」という素敵なキャッチフレーズを持っています。
1400年前の「北辰降臨伝説」
「下松」という地名は、飛鳥時代(西暦595年頃)の伝説から来ています。ある日、一本の松の木に巨大な星が降りかかり、7日間も光り輝いたというお話です。この「星が降った松=降り松(くだりまつ)」が、長い年月をかけて「下松」と呼ばれるようになったと伝えられています。今でも街のあちこちで、星をモチーフにしたデザインを見つけることができます。
奇祭「きつねの嫁入り」で地域とつながる
また、下松市の文化を語る上で欠かせないのが、毎年11月に花岡地区で開催される「稲穂祭(きつねの嫁入り)」です。
白狐のお面を被った新郎新婦が、昔ながらの行列を引き連れて旧山陽道(約1.5キロ)を練り歩くお祭りで、毎年3万人以上が訪れます。面白いのは、新郎新婦役が誰なのか、当日までスタッフにすら秘密にされていること。「新婦役に選ばれると良縁に恵まれる」という言い伝えがあり、参加を希望する女性が後を絶ちません。
地元の小学生がお神輿の担ぎ方や踊りを学ぶなど、世代を超えた交流の場になっており、新しく移住してきた人が地域に自然と馴染んでいくための、とても温かい土壌ができています。
5. 週末は車で数分のリゾートアイランド「笠戸島」へ
平日は便利な街中で働き、週末はすぐに大自然の中へ。そんな暮らしを叶えてくれるのが、市街地から橋を渡ってすぐの場所にある「笠戸島(かさどじま)」です。瀬戸内海国立公園にも指定されているこの島は、市民にとって日常の延長にあるリゾート空間です。
絶景の温泉と、特産「笠戸ひらめ」
島の観光拠点である「国民宿舎大城」には、海と水面が繋がって見えるような絶景の露天風呂(インフィニティ風呂)があり、日帰り入浴(平日・大人760円など)も楽しめます。また、島では高級魚「笠戸ひらめ」の養殖が盛んで、肉厚で甘みのある新鮮なひらめ料理を一年中味わうことができます。
子どもが喜ぶ体験スポットがいっぱい
子育て世代に特におすすめなのが「ひらめきパーク笠戸島」です。ここには日本最大級のタッチングプールがあり、海の生き物に直接触ったり、ガチャガチャで買ったエサ(100円)をヒラメにあげたりすることができます。入場料は無料で予約もいらないため、休日のちょっとしたお出かけに最高です。
ほかにも、海の上を歩ける全長約300mの遊歩道での釣りや、丘の上でのオートキャンプ、恐竜のモニュメント探しなど、家族で一日中遊べるスポットが密集しています。
6. なぜ?下松市に「空き家バンク」がない理由
ここまで下松市の魅力をご紹介してきましたが、移住先を探すために「下松市 空き家バンク」と検索して、不思議に思った方もいるかもしれません。実は、山口県内で唯一、下松市には行政が運営する空き家バンク制度が存在しないのです。
「もしかして、移住者を歓迎していないの?」と不安に思うかもしれませんが、理由はまったくの逆です。
下松市に空き家バンクがない最大の理由は、「行政がお金をかけて人を呼び込まなくても、民間の不動産市場だけで家や土地が活発に売り買いされているから」なのです。
空き家バンクというのは本来、過疎化が進んで民間会社では買い手が見つかりにくい地域の物件を助けるための制度です。しかし、これまで見てきたように「住みよさランキング全国トップクラス」の下松市は、住宅の需要が非常に強い街です。
住宅地の坪単価はおよそ13.4万〜14.2万円と、近隣エリアに比べて少し高めではありますが、都市圏に比べればはるかに手頃な価格で「広い庭付きの一戸建て」や「駐車場2〜3台分のスペース」を手に入れることができます。
家を売りに出せば、地元の不動産会社を通じてすぐに買い手が見つかるため、わざわざ市役所が独自のサイトを作る必要がない、というのが「空き家バンクがない本当の理由」なのです。
まとめ:便利さと自然の理想に近い街
「都会の忙しさからは離れたいけれど、日々の買い物や充実した医療・教育環境は妥協したくない」
移住を考える方が思い描くそんな願いに対し、下松市は限りなく理想に近い暮らしの形を見せてくれる街です。
・週末は車で少し走って、笠戸島で海釣りやキャンプを楽しむ
こんなライフスタイルに魅力を感じた方は、ぜひ下松市への移住を検討してみてはいかがでしょうか。
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