山口県から業務委託を受けた「住まいのコンシェルジュ」として、山口県内にある13市6町の移住へのアプローチを毎回ひとつずつ取り上げていくこのブログ連載。
今回は、山口県東南部に位置する「田布施町(たぶせちょう)」への移住について、日々の暮らしやすさや、町役場が取り組んでいる具体的な支援策を、わかりやすく紐解いていきます。
田布施町は、瀬戸内海に面した平野部から穏やかな丘陵地、そして海に浮かぶ離島までを含む、自然豊かながらも機能的な町です。人口は約1万3625人、世帯数は約6,808世帯(2026年9月末現在)となっており、実は山口県内の「町」の中では一番人口が多い自治体でもあります。近隣の山間部や島々と比べても、独立した都市としての機能をしっかりと保っているのが特徴です。
なぜこれほど多くの人が田布施町での暮らしを選び、定着しているのか。その理由を、毎日の生活環境や、家計を助ける具体的なサポート制度から探っていきましょう。
1. 気候と交通:毎日の生活ストレスが少ない環境
移住を考えるとき、その土地の天気や気候は生活の質を左右する非常に重要な要素です。田布施町は「瀬戸内海式気候」に属しており、1年を通して晴れの日が多く、雨が少なめです。冬場に雪が積もることもめったにありません。この温暖な気候は、農業に適しているだけでなく、毎日の洗濯物が乾きやすいといった日常の快適さや、冬場の運転のしやすさ、そして何より自然災害のリスクが低いという大きな安心感につながっています。
また、地方での暮らしというと「交通が不便なのでは?」と心配になるかもしれませんが、田布施町は交通アクセスが非常に優れています。 町の中心には自動改札機を備えたJR山陽本線の「田布施駅」があり、柳井市、下松市、周南市といった県東部・中部の主要な産業都市へ、電車で定時に通勤・通学するルートが確保されています。
車での移動も便利で、山陽自動車道の熊毛インターチェンジ(IC)まで車で約20分、玖珂ICまで約30分でアクセス可能です。なお、かつては都市間高速バス(広島線)が運行していましたが、2023年(令和5年)3月をもって運行を終了しています。しかし現在は、JR山陽本線と山陽自動車道、そして新幹線の停車駅(徳山駅や新岩国駅など)への車のアクセスが基幹となっており、広島都市圏や遠方への移動も十分にカバーされています。
毎日の生活に欠かせないインフラも充実しています。主要な幹線道路沿いにはスーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストア、地域金融機関がまとまっており、日常の買い物は町内だけで完結します。さらに、町内全域に光ファイバーの通信網が敷設されているため、都市部と遜色のない快適なテレワーク環境が整っています。
医療面でも、複数の民間診療所が小児科や内科といった日常の医療を担っています。夜間や休日の初期救急については、隣接する柳井市の休日夜間応急診療所との広域での連携体制が確立されているため、万が一の突発的な体調不良にも迅速に対応できる体制が維持されています。
2. 歴史が息づく「宰相の郷」
田布施町を語る上で欠かせないのが、日本の近代から現代に至る政治史において、国の最高指導者を複数輩出した「宰相の郷(さいしょうのさと)」であるという歴史的な事実です。地方の小さな町から、同じ血統・地域から連続して総理大臣が誕生したことは、日本の憲政史上でも極めて珍しいケースです。
旧家である佐藤家からは、長男の佐藤市郎氏(海軍中将)、次男の岸信介氏(第56・57代内閣総理大臣)、三男の佐藤栄作氏(第61〜63代内閣総理大臣)という傑出した人材が誕生しました。 岸信介氏は日米安全保障条約の改定や、国民皆保険・皆年金の基盤作りを行いました。佐藤栄作氏は沖縄返還などを実現し、日本人で初めてノーベル平和賞を受賞しています。さらに、岸信介氏の孫にあたる安倍晋三氏(第90・96〜98代内閣総理大臣)や、元防衛大臣の岸信夫氏も、この田布施町の系譜に連なる政治家です。
JR田布施駅から歩いて5分ほどの場所にある歴史文化拠点「田布施町郷土館」の2階には、「岸・佐藤兄弟宰相の遺品展示室」が常設されています。ここにはノーベル平和賞のメダルや歴史的演説の音声資料などが保存されており、無料で一般公開されています。 また、同館1階には山口県内最古級の前方後円墳と推定される「国森古墳」の出土品(青銅鏡など)が展示されているほか、明治期の文学者・国木田独歩が少年期を過ごした縁があるなど、多層的な文化資源が存在しています。
こうした歴史の厚みは、町の人たちの強い郷土愛の基盤となっています。そして、小さな町でありながら、道路網、治水施設、農地の整備といった社会インフラが、早期から高い水準で計画的に整備されてきた背景にも、こうした歴史を誇りとする町づくりの熱意が大きく影響しています。この安定した基盤こそが、現在も1万3,600人という人口集積を維持させている要因です。
3. 住まいに関するお金の手厚い支援制度
移住を考える上で一番のハードルになるのが「住まいの確保」です。田布施町では、人口の流出を防ぎ定住を促すため、マイホームを建てる方や空き家を活用する方に向けて、非常に使い勝手の良い手厚い補助金を用意しています。
現金で最大35万円支給!「子育て住まいる支援事業」
これまで地域の商品券で交付されていた住宅取得の支援ですが、令和6年度(2024年4月1日申請分)から、移住者の自由度が大幅に上がる「現金での支給」に変更されました。
中学生以下のお子さんを扶養している世帯が、町内で家を新築または購入する場合、以下の基準で現金が支給されます。
・子どもが2人いる:プラス5万円(3人以上ならさらにプラス5万円)
空き家を安く直して住むための助成金
新築だけでなく、既存住宅の利活用については、「田布施町空き家バンク」がしっかりと機能しています。全日本不動産協会山口県本部との連携体制により、プロの目による物件確認と仲介(媒介)が行われており、安心して物件を探すことができます。
成約後の支援策として「空き家バンク登録家屋リフォーム事業助成金」が用意されています。
・不要物撤去助成: 空き家活用の大きな壁となる、残された古い家具などの処分にかかる費用を全額(最大10万円)補助。
さらに、昭和56年5月以前の古い基準で建てられた木造住宅に対しては、「住宅・建築物耐震化促進事業」により最大115万円の耐震改修補助が提供されており、安全性の向上も後押ししています。
また、東京23区からの移住者(UIJターン)に対しては、国・県と協調した「東京圏移住支援金」が適用されます。対象要件を満たせば単身で60万円、2人以上の世帯で100万円が給付され、18歳未満の帯同世帯員がいる場合は子ども1人につき最大100万円が加算されるため、首都圏からの移住初期費用を大幅に抑えることが可能です。
4. 子育て世代を全力で応援する医療と教育の環境
移住を検討する層が特に重視する毎日の生活コスト。田布施町では、医療費と保育料という福祉分野へ戦略的に予算を配分し、非常に手厚い支援水準を実現しています。
所得制限なし!18歳まで医療費が実質無料
田布施町の「乳幼児及び子ども医療費助成制度」では、0歳から高等学校修了相当年齢(18歳到達後最初の3月31日まで)の全児童生徒を対象に、保険診療の自己負担分を全額助成しています。 この制度の最大の強みは、「親の収入による制限(所得制限)が完全に撤廃されている」(子ども分は令和4年8月から撤廃)という点です。保護者の年収に関わらず、すべての世帯が医療費無償化の対象となります。通院・入院の双方が対象となり、山口県内の医療機関であれば窓口での支払いが不要(現物給付)となるため、子育て中の予期せぬ医療費の不安が完全に解消されます。
第2子以降は、3歳未満の保育料が完全無料
未就学児の保育についても、町独自の積極的な支援が行われています。国の制度による3〜5歳児の無償化に加え、町は2024年(令和6年)9月より、「第2子以降となる3歳未満児(0〜2歳児)」の保育料完全無償化を導入しました。 こちらも所得制限は一切ありません。さらに、子どもをカウントする際に「上の子の年齢制限」がないため、兄弟の年齢が離れていてもきちんと第2子として認められます。認可外保育施設や企業主導型保育事業を利用する場合でも、上限額の範囲内で補助が出るため、実質的な保育費負担をゼロに近づけることができます。
教育環境も整然と配置されています。小学校は町内に4校(田布施西、城南、東田布施、麻郷)あり、都市部のマンモス校とは違って少人数クラスで先生の目が行き届く丁寧な指導が行われています。すべての小学校区に放課後児童クラブ(学童保育)が完備されており、共働き世帯のサポートも万全です。 中学校は「田布施町立田布施中学校」の1校に集約されており、町内の全生徒が同じ校舎で学ぶことで、地域の一体性を育んでいます。高校教育では「山口県立田布施農工高等学校」があり、専門的な技術教育が行われているほか、JR山陽本線を使って近隣都市の進学校へ通うことも容易です。また、「山口県立田布施総合支援学校」も設置されており、特別支援教育の拠点としても機能しています。
5. 豊かな食と自然:特産品から週末のレジャーまで
田布施町の経済や暮らしは、温暖多日照な自然の恵みを活かした農業や水産業と深く結びついています。
農業分野では、田布施川下流の平野部での米や麦、大豆の生産に加え、ビニールハウスを使った施設園芸が非常に盛んです。その代表格が「いちじく」と「いちご」です。瀬戸内の強い日照と潮風を受けて育つ田布施のいちじくは非常に糖度が高く、そのまま食べるだけでなく、地元産のいちじくを使ったオリジナルワイン、ジャム、そして伝統銘菓である「外郎(ういろう)」などの加工品開発も進められています。観光いちご農園もあり、近隣から多くの人を集めています。
水産分野では、沿岸部や馬島周辺のきれいな海域で高品質な「牡蠣(かき)」の養殖が行われており、冬の味覚として人気を集めています。 こうした農水産物が毎日集まるのが、町の中核拠点「田布施地域交流館」です。朝水揚げされた鮮魚や刺身、採れたての野菜、地元のお米、手作りのお惣菜が並びます。特に、漁師さん自らが手がける「エソ」や「ハモ」のフライ用半製品は、海が荒れて魚が出荷できない日でも安定した売り上げを作る仕組みとして定着しており、美味しいだけでなく地域の雇用も生み出しています。
景観やレジャーの面でも素晴らしい環境が広がっています。 町の中心を流れる田布施川の堤防沿いには、約1.5キロメートルに及ぶ美しい桜並木が整備されており、春には圧巻の花見スポットとして町民の憩いの場となります。 また、南部の麻里府港から渡船「ましま丸」に乗ってわずか8分の距離には、離島「馬島(うましま)」があります。島にはキャンプ場「のんびらんど・うましま」があり、海水浴やシーカヤックといったマリンレジャーが日常の延長線上で楽しめます。さらに馬島の南にある「刎島(はねしま)」では、干潮の時だけ海の中から砂の道が現れて歩いて渡れるようになる「トンボロ現象」が見られます。 普段は便利な都市機能の中で暮らしながら、船で数分の場所に手つかずの自然があるというギャップは、移住者にとって大きな精神的充足感をもたらしてくれます。
6. 移住受け入れ体制とお試し滞在・就農支援
移住を検討している方が抱く「本当に生活できるか」という不安を解消するため、田布施町では事前の体験滞在から仕事の確立に至るまでの受け入れプロセスを制度化しています。
お試し暮らし住宅「田舎暮らしの家~おいでぇ~」
町外にお住まいの方が、実際の気候やスーパーへの距離、周辺インフラなどを実地で検証できるよう、お試し暮らし住宅が用意されています。
就農支援と起業・創業のサポート
仕事の面でも手厚い支援があります。 農業を始めたい60歳未満の方には、県立農業大学校等での研修費や交通費の半分(上限15万円)を助成する「新規就農研修費補助金」があります。独立した後も、国の資金と連動して最長5年間、年間最大150万円が支給されるため、収入が不安定な初期を乗り越える大きな助けとなります。さらに、機械やハウスの導入経費を補助する制度(上限500万円)や、農地の賃借料を補助する制度(最長5年間)も用意されています。
農業だけでなく、地域で起業を考えている方には、県と協調した「移住創業支援補助金」があり、対象要件を満たすと創業経費の半分(最大200万円)の支援金が受けられます。地域交流館を活用したテスト販売など、官民が連携して定着をサポートしています。
7. まとめと各種支援の窓口情報
田布施町における移住環境を総括すると、平野部を中心としたコンパクトな生活機能の集約性と、広域交通の利便性、そして積極的な福祉政策が高度に融合していることがわかります。 所得制限のない18歳までの医療費無償化や、第2子以降の3歳未満児保育料の完全無償化。そして現金支給となった最大35万円の住宅取得補助や、空き家改修の助成。これらが組み合わさることで、移住の初期費用と日々の生活コストが体系的に軽減されています。
温暖な瀬戸内海気候と美味しい特産品、そして離島という豊かな自然。田布施町は、地方移住において「生活の便利さ」「経済的な安心感」「自然との調和」を求める方にとって、確固たる根拠をもって推奨できる定住適地です。
各種支援制度の相談や申請の手続きは、以下の窓口で受け付けています。
・メール:chiiki@town.tabuse.yamaguchi.jp
・電話:0820-52-5803 ※住宅取得支援は、必ず申請前(建物の登記完了日から6か月以内)の事前相談が必要です。
まずは一度、お試し暮らし住宅を活用して、田布施町の空気を現地で体感してみてはいかがでしょうか。
田布施町の物件探しや、移住に関する具体的な住まいのご相談は、 弊社のお問い合わせページ よりお気軽にご連絡ください。
