山口県内13市6町の移住への取り組みを、住まい探しの視点から順番に紐解いていくこのシリーズ。今回は、県南東部の海に突き出た室津半島と、橋でつながる長島、そして船で渡る祝島や八島からなる「上関町(かみのせきちょう)」を取り上げます。
個人的に上関町は好きだな、とよく思います。海峡の景色を眺めながら入る「鳩子の湯」や、地元の美味しいものが揃う「道の駅 上関海峡」。観光地としての知名度や規模感では、お隣の周防大島町に少し負けるかもしれませんが、静かで豊かな時間が流れる独特の魅力がある町です。
ただ、「休日に遊びに行く場所」と「毎日暮らす場所」では、見えてくる景色が変わります。今回は移住を検討している方に向けて、手厚い支援策という魅力的な部分と、日々の生活インフラというありのままの生活事情の両面から、フラットな視点でお伝えします。
海と歴史が織りなす穏やかな日常
上関町は古くから瀬戸内海の「西の関所」として栄えた港町です。町を歩けば、朝鮮通信使が立ち寄った歴史を伝える「旧上関番所」や、明治時代に建てられた不思議な和洋折衷建築「四階楼(しかいろう)」など、当時の名残を感じることができます。
また、食の豊かさも大きな魅力です。潮流の速い海峡で育った高級トラフグや車海老、温暖な気候を生かした「祝島びわ」など、小規模ながらも質の高い特産品が揃っています。そして何より、地下1,000メートルから湧き出る天然温泉 「鳩子の湯」は、町民の憩いの場。町民なら割引料金(200円引き)で利用できるため、日々の疲れを絶景の露天風呂で癒すことができます。
突きつけられている「人口減少」という現実
自然も温泉も素晴らしい町ですが、移住を考える上で避けて通れない現実があります。
現在、上関町の人口は2,000人を割り込み(2026年4月時点で1,835人)、高齢化率は56.4%と山口県内で最も高い数字になっています。若い世代が減り、お年寄りが増えているため、これまで住民同士で助け合って維持してきた集落の機能や生活環境を守っていくのが、少しずつ難しくなってきている状況です。
だからこそ、町は本気で「新しい住民」を迎え入れようとしています。
本気の定住支援!特に「子育て世帯」へのサポートが手厚い
深刻な人口減少に歯止めをかけるため、上関町の移住支援策は全国的に見ても非常に思い切った内容になっています。特に「子どもを育てやすい環境づくり」には多額の予算が割かれています。
移住応援給付金: 家族での移住なら基本50万円。さらに18歳未満の子ども1人につき「50万円」が加算されます(上限150万円)。
教育・医療の無償化: 高校生世代までの医療費、小中学校の給食費、保育料や副食費がすべて「完全無料」です。
多子世帯へのボーナス: 第3子が生まれると30万円のお祝い金、小学校入学時に20万円。さらに、子どもが3人以上いる世帯がミニバンなどの大きな車(6人乗り以上)を買う際には、なんと50万円の補助が出ます。
移住前に知っておくべき「暮らしのホンネ」
支援金や補助金は魅力的ですが、毎日の生活はそれだけでは成り立ちません。実際の暮らしで直面する課題もしっかり知っておきましょう。
町内にスーパーやコンビニはありません。日常の買い物は地元の個人商店や移動販売に頼るか、車で20〜30分かけてお隣の平生町(ひらおちょう)や柳井市(やないし)の大型スーパー、ホームセンターへ買い出しに行くのが一般的な生活スタイルです。自家用車は必須アイテムと言えます。
町内には診療所がありますが、大きな病院や救急医療はありません。万が一の重病や急病の際は、柳井市の総合病院へ頼ることになります。また、町内に高校はないため、高校生になるとバス等を使って柳井市方面へ通学することになります(町からの通学費補助制度はあります)。
まとめ:上関町への移住が向いているのはどんな人?
上関町の特徴をまとめると、以下のような方に適した移住先と言えます。
静かな環境と素晴らしい景色の中で仕事をし、仕事終わりは温泉へ。買い物は車で週末にまとめ買いと割り切れる方には、県のテレワーク移住補助金なども活用できるため非常に好相性です。
医療費や給食費の無償化など、経済的なメリットは絶大です。ただし、高校通学や小児科へのアクセスなど、将来的な「移動の手間」を家族で納得できていることが条件になります。
町には漁業を始めるための研修支援や、漁船のリース制度などがあります。地域のルールを尊重し、集落の一員として溶け込める覚悟があれば、手厚いバックアップを受けられます。
